野ウサギを裂く2羽のワシ 古代アクラガスの小さなオボル銀貨
CoinWeekは2026年2月19日、ラッセル・A・オーガスティン氏の連載で、シチリアの古代ギリシャ都市アクラガスが紀元前410〜406年ごろに発行したオボル銀貨を取り上げました。表には野ウサギを裂く2羽のワシ、裏にはカニと魚が刻まれています。知られている実物はすべて同じ一組の型から打たれたとみられる、と記事は述べています。
訂正(2026年10月13日) 題・要約・本文を出典に合わせて書き直しました。出典はCoinWeekが2026年2月19日に掲載したラッセル・A・オーガスティン氏の記事で、旧記事は出典にないアテナイのシチリア遠征を造幣改革の原因とする記述や、「ディオドーロス帝政時代」、詩人・哲学者の招聘、デカドラクマの外交利用、アテナイ・コリントスとの比較などを含んでいたため削りました。出典が扱うオボル銀貨の図柄、同じ型による製造、紀元前406年の攻略などを加えました。旧題は「紀元前415年アクラガス:ワシ紋銀貨が伝える古代ギリシャ都市国家のアイデンティティ戦略」です。
この記事は、CoinWeekが2026年2月19日に掲載した、ラッセル・A・オーガスティン氏(AU Capital Management, LLC)の連載「Ancient Greek Coins」の回にもとづきます。取り上げているのは、古代ギリシャの都市アクラガスが紀元前410〜406年ごろに発行した小さな銀貨(オボル)です。
シチリアの富める都市アクラガス
アクラガスは、シチリア島の南岸に築かれたギリシャ人の都市で、現在のアグリジェントにあたります。記事によると、西地中海のギリシャ都市の中でも特に豊かで力のある都市の一つで、並ぶのはシラクサだけでした。その繁栄は、今も遺跡に立つドーリア式の大神殿などの建築に表れています。
長く変わらなかった図柄と、紀元前415年ごろの刷新
アクラガスの貨幣は、ほぼ1世紀にわたって図柄がほとんど変わりませんでした。初期の貨幣は、表にゼウスのワシ、裏にカニを刻むのが通例でした。
記事は、シチリアの貴族たちの競い合いが、馬の競技や公共事業、そして貨幣の意匠にも表れ、芸術の面での「軍拡競争」のような状況を生んだと述べています。
紀元前415年ごろ、アクラガスは複数の額面にわたって貨幣の意匠を大きく改めました。新しい貨幣は、図柄が複雑になり、写実性と構図の工夫が大きく進んでいます。記事は、これらの貨幣が古代ギリシャ貨幣の中でも最も美しいものの一つと広く見なされており、紀元前5世紀末のシチリアで活動した熟練の彫刻師の作であることは明らかだ、としています。
小さな額面に込められた技術
記事が取り上げるオボル銀貨は、ギリシャ貨幣の中でも最も小さい額面の一つです。それでも、立体感、動き、体の写実的な表現が実現されている、と記事は述べています。
様式の面では、アクラガスの有名なデカドラクマ(10ドラクマにあたる額面)や、「スキュラ」のテトラドラクマ(4ドラクマにあたる額面)と明らかな共通点があるとしています。多くの研究者は、これらの型(打刻用の金型)を同じ工房、あるいはデカドラクマを手がけたのと同じ彫刻師の作とみています。
表:野ウサギを裂く2羽のワシ
表には、捕らえたばかりの野ウサギを引き裂く2羽のワシが描かれています。1羽は翼を広げて獲物へ身をかがめ、もう1羽は勝ち誇るように頭を上げています。構図は厳密な左右対称を避け、自然な動きを取り入れています。
記事は、この図柄がアイスキュロスの悲劇『アガメムノン』の一節を下敷きにしている可能性があるとしています。劇中では、2羽のワシが身ごもった野ウサギを食らい、それがアガメムノンとメネラオスによるトロイア滅亡の前兆とされます。
裏:カニと魚
裏には、古くからアクラガスの紋章であるカニが刻まれています。カニは近くを流れるアクラガス川と都市そのものを表します。カニの下には魚があり、一般にスズキの仲間とされています。記事末尾の貨幣の説明では、この魚をハタ(grouper)としています。
記事は、以前の貨幣が淡水とのつながりを強調していたのに対し、この組み合わせは紀元前5世紀末に都市が海への関心を広げていたことを示すのかもしれない、と述べています。
特別な発行だったのか
知られているこのオボルの実物は、すべて同じ一組の型から打たれたとみられ、製造数が限られていたことをうかがわせます。記事は、ごく小さな額面にこれほどの技術が注がれていることから、日常の流通用ではなかったという説を紹介しています。儀式用、記念の配布用、あるいは有力者への贈呈用だった可能性がある、としています。
紀元前406年、アクラガスはカルタゴ軍に攻略されました。記事によると、この出来事で都市の黄金時代は終わり、この時期の芸術的な貨幣も途絶えました。
記事で紹介された1枚
記事末尾に紹介された貨幣は、アクラガスのオボル銀貨で、重さ0.79グラム、紀元前410〜406年ごろのものです。文献としてBasel 263(SNG Lockett 519と同じ)、Rizzo pl. III, 6、SNG Lloyd 829が挙げられ、いずれも同じ型によるものとされています。説明では「非常に希少(Very rare)」、状態は「Extremely fine」と記されています。
出典: CoinWeek「Ancient Greek Coins – The Eagles and Coinage of Akragas」(2026年2月19日)
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